観光立国を目指すために欠かせない『民泊』の適正化とこれからの展望
観光学部観光学科教授 東 徹
2016/09/06
研究活動と教授陣
OVERVIEW
近年、注目されている「民泊」とは?
規制緩和に向かうその背景や問題点、今後の展望について、観光学部の東徹教授に伺いました。
最近「民泊」が話題になっています。どのような背景からでしょうか。
近年、訪日外国人旅行者(インバウンド)が急増し、2015年には1974万人に達しました。政府は3月に発表した「観光ビジョン」で、2020年に4000万人、さらに2030年には6000万人にまで訪日客を増やすという新たな目標を掲げています。訪日客の急増に伴い、東京や大阪など一部大都市の「ホテル」は稼働率が高まり、宿泊施設の不足が懸念されるようになってきました(もっとも、旅館や地方の宿泊施設ではそこまで稼働率は高くありませんが???)。
そこで、近年注目されているのが「民泊」です。民泊は、住宅(戸建住宅、マンション等)の全部または一部を利用して宿泊サービスを提供するものをいいます。訪日客の急増に伴う「ホテル不足」を空き家や空き部屋を有効活用して解決しようというわけです。もっとも、民泊のホストには、自宅に外国人旅行者を宿泊させて交流を図ろうとするタイプ(短期ホームステイ型)もいれば、マンションの空き部屋を利用した不動産ビジネスとして民泊を行い、利益を獲得しようとするタイプ(不動産ビジネス型)もいます。
また、住宅を宿泊施設として活用したい人と、旅行先の日常の暮らしに触れたい、あるいはより安く泊まりたいというニーズを持った旅行者を、インターネットを通じてマッチングする仲介サイト(例えば、Airbnbなど)が急速に普及し、その存在感を拡大してきたことも民泊が注目されている背景といえるでしょう。
そこで、近年注目されているのが「民泊」です。民泊は、住宅(戸建住宅、マンション等)の全部または一部を利用して宿泊サービスを提供するものをいいます。訪日客の急増に伴う「ホテル不足」を空き家や空き部屋を有効活用して解決しようというわけです。もっとも、民泊のホストには、自宅に外国人旅行者を宿泊させて交流を図ろうとするタイプ(短期ホームステイ型)もいれば、マンションの空き部屋を利用した不動産ビジネスとして民泊を行い、利益を獲得しようとするタイプ(不動産ビジネス型)もいます。
また、住宅を宿泊施設として活用したい人と、旅行先の日常の暮らしに触れたい、あるいはより安く泊まりたいというニーズを持った旅行者を、インターネットを通じてマッチングする仲介サイト(例えば、Airbnbなど)が急速に普及し、その存在感を拡大してきたことも民泊が注目されている背景といえるでしょう。
民泊にはどのような問題があるので しょうか。
近隣住民の生活環境の悪化をはじめ、安全?衛生上の観点や、テロや不法滞在など悪用防止の観点、他には賃貸借契約(無断転貸)や管理規約違反など、さまざまな問題が指摘されていますが、最も問題なのは、無許可で営業を行っている違法な民泊が少なからず存在しているということです。現在の法規制では、反復継続して対価(宿泊料)を得て人を宿泊させる場合には、原則として旅館業法の許可が必要になります。本来、旅館業法の許可が必要であるはずなのに、無許可で民泊が行われているのです。昨年、京都でマンションを利用して多数の外国人旅行者を繰り返し宿泊させていた無許可営業の違法民泊が摘発されましたが、それこそ「氷山の一角」にすぎないといわれています。
こうした事態に対し、行政側も昨年から今年にかけて相次いで対策を具体化しはじめました。一つの動きは「国家戦略特区」を使った民泊条例の制定です。昨年10月には大阪府で、次いで12月には東京の大田区で民泊条例が制定され、民泊の適正化に向けたルールが定められました。ところが「6泊7日以上」という基準がネックになっているためか、実際の認可申請はごく少数にとどまっているようです。もう一つの動きは旅館業法の規制緩和が行われたことです。厚労省は今年の4月から旅館業法施行令を緩和し、「簡易宿所営業」については、宿泊者10人未満の場合、客室の延床面積を1人当たり3.3㎡以上とし、あわせて一定の管理体制が確保されることを条件に、玄関帳場(フロント)の設置を要しないこととしました。規制のハードルを下げることで民泊事業者に営業許可を取るよう促そうとしたわけです。しかし、旅館業法の規制が緩和されたとはいっても、実際に営業を行うためには、少なくとも消防法や建築基準法等の規制をクリアしなければならないし、自治体によってはより厳しい条例で「上乗せ規制」が行われることもあります。個人が民泊の営業許可をとるのはそう簡単なことではないのです。
こうした事態に対し、行政側も昨年から今年にかけて相次いで対策を具体化しはじめました。一つの動きは「国家戦略特区」を使った民泊条例の制定です。昨年10月には大阪府で、次いで12月には東京の大田区で民泊条例が制定され、民泊の適正化に向けたルールが定められました。ところが「6泊7日以上」という基準がネックになっているためか、実際の認可申請はごく少数にとどまっているようです。もう一つの動きは旅館業法の規制緩和が行われたことです。厚労省は今年の4月から旅館業法施行令を緩和し、「簡易宿所営業」については、宿泊者10人未満の場合、客室の延床面積を1人当たり3.3㎡以上とし、あわせて一定の管理体制が確保されることを条件に、玄関帳場(フロント)の設置を要しないこととしました。規制のハードルを下げることで民泊事業者に営業許可を取るよう促そうとしたわけです。しかし、旅館業法の規制が緩和されたとはいっても、実際に営業を行うためには、少なくとも消防法や建築基準法等の規制をクリアしなければならないし、自治体によってはより厳しい条例で「上乗せ規制」が行われることもあります。個人が民泊の営業許可をとるのはそう簡単なことではないのです。
現在、どのようなルールが検討されて いますか。
政府は昨年11月以降、「民泊サービス」のあり方に関する検討会を13回開催し、民泊に関するさまざまな問題を議論し、新たなルールづくりに向けて検討を重ねてきました。その結果が、6月20日に最終報告書として公表されました。そこでは、住宅を活用した宿泊サービスである「民泊」については、ホテルや旅館等を対象とした既存の旅館業法とは別の法制度を整備するべきだとしています。具体的にいうと、「一定の要件」を定め、その範囲内なら新制度を適用し、範囲を超える場合には旅館業法の営業許可が必要になるというものです。問題はこの「一定の要件」ですが、外国の規制を参考にすれば、年間の提供日数や1日の宿泊人数に上限を定めるといったことが考えられるのですが、報告書では、年間提供日数の上限による制限を基本とし、その日数については「180日以下の範囲内で設定する」としています。今後その「線引き」をめぐって議論がなされることになるでしょう。
もう一点特徴的なのは、民泊を「家主居住型」と「家主不在型」に区別していることです。「一定の要件」の範囲内で民泊を行う場合には両タイプとも「届出」を行うことになりますが、「家主不在型」の場合、「家主居住型」に比べて近隣とのトラブルや施設を悪用されるリスクが高く、苦情の申し入れ先も不明確であることから、適正な管理を行うため、行政庁に「登録」した管理者に管理を委託することが必要であるとしています。
さらに、報告書では仲介事業者(マッチングサイト等)についても行政庁への「登録」を行うこととし、規制の対象とすることを求めています。
これから報告書が示した制度設計のあり方を基に、民泊に関する新ルールが整備されていくことになりますが、「絵に描いた餅」にならないよう、民泊の適正化に向けた「実効性」のあるルールづくりと運用が求められます。
もう一点特徴的なのは、民泊を「家主居住型」と「家主不在型」に区別していることです。「一定の要件」の範囲内で民泊を行う場合には両タイプとも「届出」を行うことになりますが、「家主不在型」の場合、「家主居住型」に比べて近隣とのトラブルや施設を悪用されるリスクが高く、苦情の申し入れ先も不明確であることから、適正な管理を行うため、行政庁に「登録」した管理者に管理を委託することが必要であるとしています。
さらに、報告書では仲介事業者(マッチングサイト等)についても行政庁への「登録」を行うこととし、規制の対象とすることを求めています。
これから報告書が示した制度設計のあり方を基に、民泊に関する新ルールが整備されていくことになりますが、「絵に描いた餅」にならないよう、民泊の適正化に向けた「実効性」のあるルールづくりと運用が求められます。
訪日外国人旅行者の増加をどのように見るべきでしょうか。
日本が「観光立国」を目指し、積極的に訪日外国人旅行者を増やそうとしているのにはいくつかの理由が考えられますが、最も大きな理由として、日本の総人口が減少し少子高齢化が進むことによって、日本経済を支える生産年齢人口が減少していくことが挙げられます。端的にいえば、日本経済の活力を維持していくために、人口減少によって失われる消費分を外国からやってくる旅行者の消費によって補おうというのです。政府が2020年に4000万人、2030年には6000万人という数値目標を掲げるのもそこに根拠があると考えられます。現在の水準で、日本人1人当たりの消費額は約125万円程度、おおよそ訪日客7.1人分の消費額に相当すると推計されています。日本の将来人口予測によれば、2020年には現在より約250万人減少するとされているので、1775万人の訪日客で補うことになります。昨年の訪日客数にこれを加えると3749万人となり、政府目標の4000万人に近い数値となります。もっとも2030年には、現在より998万人ほど人口が減少すると予測されているので、6000万人でも足りないのでは、と思われるのですが…。
今より2倍、3倍と訪日客が増えていくというのですから、宿泊需給がますます逼迫(ひっぱく)することになり、これを補うには民泊が必要、ということになるのでしょう。
しかしながら、インバウンドの増加に伴う問題は民泊ばかりではありません。通訳ガイドの不足や質の担保、日本国内の手配を行うランドオペレーターに対する適切な規制、さらには地方分散化をどう進めるかといった問題や、入浴や食事の習慣?マナーの違いをめぐる文化摩擦の問題等々、細かな問題まで含めればインバウンドの受け入れに関しては多種多様な問題が山積しています。
今より2倍、3倍と訪日客が増えていくというのですから、宿泊需給がますます逼迫(ひっぱく)することになり、これを補うには民泊が必要、ということになるのでしょう。
しかしながら、インバウンドの増加に伴う問題は民泊ばかりではありません。通訳ガイドの不足や質の担保、日本国内の手配を行うランドオペレーターに対する適切な規制、さらには地方分散化をどう進めるかといった問題や、入浴や食事の習慣?マナーの違いをめぐる文化摩擦の問題等々、細かな問題まで含めればインバウンドの受け入れに関しては多種多様な問題が山積しています。
日本は、「観光立国」としてどうあるべきでしょうか。
インバウンドというと、とかく訪日客数や消費額の増加といった量的な面ばかりが注目されがちですが、訪日客の観光体験の「質」にも目を向けてほしいと思います。日本はいよいよインバウンド2000万人時代を迎えようとしています。私は日本が「毎年2000万人の外国人旅行者が訪れる国」であることを誇るよりも、「毎年2000万人の“日本ファン”を生み出す国」であることを誇りとするような国であってほしいと思っています。日本を訪れた外国人旅行者が観光を通じて日本を好きになってくれたら、自国に戻ってもメイド?イン?ジャパンを購買し愛用してくれるかもしれませんし、リピーターとして再び日本を訪れてくれるかもしれません。さらには日本の大学に子どもを留学させたいと考えたり、日本企業で働きたいと思ってくれるかもしれません。質の高い観光体験が「日本」に対する評価やイメージを高め、「特別な思い入れ」につながれば、さまざまな場面にその効果は波及していきます。観光は「日本ブランド」をアピールし、感じてもらうチャンスなのです。それこそが「観光立国」の一つのあり方ではないでしょうか。
観光立国として世界に胸を張って「日本ブランド」をアピールしようとするなら、民泊の適正化はもちろんのこと、観光体験の質を高めるための仕組みづくりや取り組みに力を注いでいくべきでしょう。
観光立国として世界に胸を張って「日本ブランド」をアピールしようとするなら、民泊の適正化はもちろんのこと、観光体験の質を高めるための仕組みづくりや取り組みに力を注いでいくべきでしょう。
東教授の3つの視点
◆民泊には、「日本の日常の暮らしに触れたいという外国人旅行者を自宅に受け入れ、交流を図ろうとするタイプ(いわば短期ホームステイ型)」と、「空き家や空き部屋を利用し、インバウンド需要を取り込んで不動ビジネスによる利益を得ようとするタイプ(いわば不動産ビジネス型)」がある。
◆民泊は、「インバウンドの増加に伴うホテル不足の解決」や「空き家?空き部屋を有効活用した新たなビジネスチャンス(シェアリング?エコノミー)」という観点だけで推進されるべきではなく、「近隣住民の生活環境への配慮」等、さまざまな観点から指摘されている問題点に配慮するとともに、違法民泊を解消するような「民泊適正化に向けた実効性のあるルールづくり」が求められる。
◆訪日客数や消費額といった量的な面からインバウンドを捉えるだけでなく、「観光体験の質」を高めることを通じて「日本ブランド」をアピールするチャンスと捉えるべき。それこそが「観光立国」への道。
◆民泊は、「インバウンドの増加に伴うホテル不足の解決」や「空き家?空き部屋を有効活用した新たなビジネスチャンス(シェアリング?エコノミー)」という観点だけで推進されるべきではなく、「近隣住民の生活環境への配慮」等、さまざまな観点から指摘されている問題点に配慮するとともに、違法民泊を解消するような「民泊適正化に向けた実効性のあるルールづくり」が求められる。
◆訪日客数や消費額といった量的な面からインバウンドを捉えるだけでなく、「観光体験の質」を高めることを通じて「日本ブランド」をアピールするチャンスと捉えるべき。それこそが「観光立国」への道。
※本記事は季刊「立教」237号(2016年7月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
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プロフィール
PROFILE
東 徹
1962年3月 岩手県陸前高田市生まれ
1989年3月 日本大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学
北海学園北見大学商学部教授、日本大学商学部教授等を経て、2010年4月より現職。
2014年4月より立教大学観光ADRセンター副センター長、2015年4月より観光研究所長、
2016年4月より観光学科長を務める(いずれも現在に至る)。
専門領域は商学?マーケティング。「ソーシャル?テクノロジー」としてのマーケティングに立脚し、「観光」「サービス」「地域振興」に関するさまざまな問題に取り組む。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。